NAMARA TriP

なまら旅して、なまら撮る

立山・剱岳〜滑り納めとは〜

 

 ”立山

 

 立山と聞くと、富士山、白山と共に日本三霊山として古くから称えられる歴史ある3,000m級の高山であることが思い浮かぶ。つい最近ブラタモリで紹介されていたことでも知られている。

 滑る人間にとっては、11月の初山滑りができ、4月からは残雪を求めて各地から滑り手達が訪れる憧れの場所。

 今回僕たちは、2泊3日の日程で今シーズンの滑り納めを目的に、神々が宿る山「立山」へと向かった。

DAY 1:Sunset Ride

 2019年5月25日

 5月末とは思えない蒸し暑い深夜の都心を短パンとサンダルで抜け出し、長野県の安曇野で車を降りると、気温の低さに少し後悔した。温かい日の出が待ち遠しく思えたその時は、これから向かう高山での朝を想像させた。

 準備をしていると、S店長に「スノーシューは?」と聞かれ、「重いのでアイゼンだけです」と答えると、「いいトレーニングになりそうですね」と言われたが、僕はこの意味をこのときまだわかっていなかった。

 立山の入り口となる扇沢からは、今年から導入された電気バスに乗り黒部ダムを渡って、ケーブルカー、ロープウェイ、トロリーバスと乗り継いで、目的となる室堂へ辿り着くまで約1時間半。

 眠たい目をこすりながら、重たい荷物と長い移動でほとんど体力を奪われる。遠いな〜。

 室堂に到着すると、視界の先には豊富な残雪が残る立山連峰の姿があった。寝不足と乗り継ぎで疲れていた僕たちの気分は一気に高まった。

 麓では史上最高気温を記録している中、快適な気温と日射で室堂平から最初の目的地である龍王岳を目指す。

 春だからとアイゼンだけで来たが、日射でグサグサになった残雪は思うように歩けず、すぐに後悔した。今度はスノーシューも持ってこよう。

 黒部源流の絶景。

 快晴無風の中、気持ちよすぎて上半身もご覧のとおり。S店長は写真に写る北アルプスオートルートを、スノーシューを使って2泊3日で歩き通したとのこと。凄すぎる。

 龍王岳直下で滑走準備を済ませ、今旅初斜面を慎重にクリアする。

 からの快適なザラメ。残雪にシュプールが刻まれる。

 ボトムへ降り、続けて鬼岳を目指すが、稜線上は雪が繋がっておらず、諦めて一ノ越へ戻って主峰雄山を目指す。5月末の立山は人が少なく気持ちがいい。ここでも踏み込む足がずれ、遅れをとる。春の緩んだ雪は歩くのが難しい。

 すでに夕暮れ時となった雄山山頂には、もう僕たち意外に人が数人いるのみ。

 貸切の余韻を噛み締め、今旅の目的の一つであるサンセットライドの出番である。

 日の入りが迫る中、夕暮れに向かって山崎カールに次々とターンを刻む。ファインダーを覗きながら涙が出そうになった。日本人にとって哀愁漂う夕陽は特別なものだと感じる。

 初日のサンセットを見納めると同時に、辺りは暗くなり立山に静かな夜が訪れ、長い一日が終わった。

 

DAY 2:Climb Ride

 2019年05月26日

 雷鳥荘の食事と温泉が、疲れた身体に癒しを与えてくれた。

 2日目の今日は劔沢周辺での滑走を予定している。はずだった。

 劔御前小舎に着くと、生涯2度目となる岩と雪の殿堂「剱岳」が現れた。

 平安時代末期から江戸時代にかけて山岳信仰の一つとして注目を集めた立山信仰の世界観が凝縮した掛軸式絵画として「立山曼荼羅」がある。その中で、立山とは対照的に剱岳は地獄として表現されている。

 僕たちは地獄へ向かってメローなターンを刻んだ。

 劔沢周辺で別山沢や真砂沢滑走と言う選択肢もあったが、最も辛そうな剱岳を登って滑走する道を選んだ。3人ともMなのか、刺激が好きなのか。

 劔沢を滑り平蔵谷ボトムに辿り着くと壁のような斜度の斜面が僕たちの前に現れた。ここから約1,000mの標高差を登り、滑降を試みる。

 最終日に知ったが、剱岳山頂から滑走する大脱走ルンゼというスティープな斜面の存在を知った。写真右手の沢筋から出てくるのがそれなのか?

 雷鳥荘を出て約6時間、平蔵谷のコルに到着した頃、時計の針は12時を過ぎていた。

 ここから板を背負った状態でカニのたてばいを攀じ登り、剱岳山頂を目指した。

 山頂は雪の高さもあり、3,000mを超えていた。

 山頂では、2名の登山者がテントを張ってキャンプをしていた。聞くところによると、池の平小屋で働いている方々のようで、この先のアドバイスを親切に教えてくれた。

 そんなアドバイスを元に進むと、岩と雪の殿堂の名に恥じない下り斜面が現れた。

 正直、こんなに緊張するところは今回が初めてだった。緊張と冷や汗を感じつつも冷静に一つ一つ岩を掴み、足を蹴り込みながらクリアしていった。

 難所をクリアした頃には、予定時刻を大幅に周っていたため、急いで滑走準備を整える。

 剱沢周辺での滑走を楽しむはずが、こんな場所まできてしまった。少し準備不足感は否めないが、やりきったご褒美として剱岳長次郎谷左俣滑走を成し遂げた。

 「クライム&ライド」と真剣にやっている人からすれば言えたものではないが、自分の中ではそれと同価値のある行程だったことは間違いない。

 ボトムに着いた頃、すでに日は傾き始め、16時前となっていた。

 「よし、ここからはサクッと歩いて、劔御前小舎からサンセットライドして、雷鳥荘で温泉とビールで宴会だな。あ〜お腹すいたな〜」

 心の中では、完全にこんな状態だったが、甘かった。

 劔岳での登攀と滑走でほとんどエネルギーを使い、残業をこなすだけの体力が残っていなかった僕は、S店長との距離がどんどん大きくなってしまった。

 劔御前小舎に着いたのは滑走終了から3時間後。すでに日は沈みかけ、サンセットライドギリギリの到着になった。

 足取りが重い僕を合計1時間待ち続けてくれたS店長に感謝しかない。

 急いで滑走準備を済ませ、雷鳥沢を一気に滑り降り、泣きそうになりながらも最後の力を振り絞り、雷鳥荘に戻り、なんとか夕食時間ギリギリに間に合った。

 ご飯が身体に染み渡る〜。

 

DAY 3:Fun Ride

 2019年05月27日

 人の気配が少ない月曜日の朝は、雷鳥も安心して沢山歩いていた。頭が赤いのがオスであることを帰りの室堂で教えてもらった。

 雷鳥荘で朝風呂を済ませ、朝食バイキングでお腹一杯食べて、モーニングコーヒーを飲んで、ゆっくり準備を済ませて最終日1本目の滑走へ向けてハイクアップ。

 昨日登った剱岳の裏側。馬場島登山口を深夜1時に出発して、左に伸びる早月尾根をスキー担いで登って、平蔵谷滑って、小窓登り返して滑って帰る神奈川在住のおじさんがいたな。クレイジーすぎる。

 僕たちはのんびり室堂乗越を目指す。

 フォトジェニックな浄土沢をバックに大きなターンを描くS店長。

 ターンにかける気持ちが、ひび割れしたファインダー越しから伝わってきた。

 尾根キープのフォールラインはスキーならではでとても絵になる。

 二人のようにかっこよく滑れるように精進しよう。

 浄土沢から対岸の斜面を登り、本日並びに今シーズン最後の滑走を各々が噛み締める。

 嬉しさからか、達成感からか、込み上げる気持ちが前面に出ているS店長。

 こうして、雪と戯れる立山での3日間が終わった。

 僕たちを見下ろす立山連峰は、来たときよりも少し雪が減ったように思えた。

 そして、みくりが池にどう滑り込むかを議論する大人たちはいかがなものなのか。

 

滑り納めとは

 

 「12月から2月までゲレンデ滑走」

 「山でパウダーしか滑ったことがない」

 「11月の立山から7月の乗鞍岳か月山で終了」

 「日本で滑り終わったら、6〜10月まで南半球で滑り込み」

 と言った具合にシーズンといっても、人によってその長さは様々だろうが、いつかは板を仕舞う場合がほとんどだ。

 物語でいう起承転結の「結」をどうするか、その旅のフィナーレをどう飾るか、その締め方で全てが決まると言っても大げさではないかもしれない。

 そんな長い冬の旅を終えるにふさわしい場所が、今回は立山だった。