NAMARA TriP

なまら旅して、なまら撮る

残雪の秘湯で過ごした旅

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 2018年5月11日~12日

 世の中のほとんどの人は、ゴールデンウィークの連休が終わり、日常の生活リズムへ戻られた方が多いことでしょう。僕の連休は特に予定もなく、平穏そのものでした。それも全ては、今シーズン最後のイベントがそのあとに待っていたから。

 今回、春の残雪の上で温泉に浸かり、酒や肉をテント泊で堪能するフルコースを目的とし、北アルプス後立山連峰の標高2,100mに位置する白馬鑓温泉を目指した。

1日目|大人の平日

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 平日の早朝、白馬村に差し掛かると、深い霧が立ち込めていた。外の気温は0度近く、昼と夜の気温差が最も大きい時期だと肌で感じる。

 待ち合わせ場所である猿倉駐車場に着くと、某北欧アウトドアブランド取扱店の店長の声かけにより集まった大人たち8名が全員集合した。皆平日にもかかわらず予定を調整してくるあたりは、人生で何が大事かを肌で感じているのかもしれない。

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 各々準備を済ませ、自然に湧き出る白馬鑓温泉を目指して残雪の中を進む。

 今回のパーティーは、滑走スタイル、ULスタイル、アルパインスタイルと、それぞれのスタイルが光る。

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 今旅は1泊2日の大人のテント泊であり、肉や酒を大量に背負った荷揚げに近い状態のため、足取りは亀のようにゆっくりとなるのは予想通りだった。

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 小日向のコルを目指す。

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 ここ数日は悪天候が続き、今旅の計画に不安をよぎらせたが、この2日間は図ったかのように安定した天候を示し、こうしてのんびり昼寝をすることもできる。

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 ここまで重荷でしかなかった板に足を乗せ、白馬鑓温泉を目前に滑り込む。

 重い荷物を背負って板を踏み込むと、感じたことのない板のしなりに驚いた。そして、歩くことでは得られない一枚板の移動距離は、この遊びならではだと改めて感じた。

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 「本気出せば30分で温泉まで着きそうですね〜」

 と余裕で歩き始めるものの、目で見ている景色と距離感の違いに早くも後悔する。

 目的地が目で見えた瞬間、皆気持ちが緩んだのか徐々に隊列が崩れ始めた。と書いてみたが、元々隊列など組んでいなかったので、各々マイペースに登る。

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 そして、最後のひと登りは目で見えているよりも長く、皆の身体の動きがこれまで以上に重く感じた。

 店長早い。

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 やっと目的地に着く頃には、時計の針が午後2時を周り、到着予想時刻を大きく上回っていた。

 早速温泉に入りたいと思うものの、雪の上でテントを張るためにはやることが色々とあることを知る。まず切り取った雪で防風壁を作り、テントが風の影響を受けないように、しっかりペグダウンする必要がある。温泉入っている間にテントが飛ばされてたら、なんてこともありうる話。

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 午後になり日が落ち始めて風が強くなってきたところで、念願の白馬鑓温泉へ入ることができた。以前、夏に訪れたときは足湯しかできなかったので感慨深い。

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 日焼けと靴ずれに源泉が染みて長湯できない。でも湯の外は風が強くて寒い。結果、寒いので湯に浸かりながらの夕食準備。

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 暑いので雪を入れて湯加減を調整する。

 結局、日が沈むまで3時間半も温泉に浸かり、皮膚がふやけてきたのは言うまでもない。

 

2日目|アルパインエリア

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 目が覚めると、東の山並みの向こう側から暖かな光が徐々に顔を出し、穏やかな朝を迎えた。夜のうちに風も止み、清々しい目覚めとなった。

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 寝起きの一本を滑る。滑り好きな人にとって、テント場前の斜面は滑らなければ気が済まないということ。

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 滑りたい人たちは、準備を済ませて白馬鑓温泉の上部に広がる大斜面を目指す。

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 皆どこからアプローチして滑ろうか悩んでいる様子。

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 尾根伝いにジリジリと標高を上げていくと白馬村が見えた。

 標高3,000m近いアルパインエリアが、これだけ生活する場所と近いのは世界的にも珍しく、改めて白馬村の素晴らしさを実感した。

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 風もなく穏やかな空気の中、アルパインエリアへ足を踏み入れると、少し冷んやりした空気に切り替わった。

 「あの大岩の方良さそうですね。」

 その野心的な一言から始まった作戦会議。ここから二手に別れることにした。

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 「ここまできたら、白馬鑓ヶ岳登りたいですねー」

 と言い残して、このアルパインエリアでも”止まらずに動き続ける”ことができる店長。トレイルランニングなどの動き続けるアクティビティがこういうところでも活きているような気がした。

 僕は大岩からのシューティングと鑓ヶ岳からの滑走の両方を撮れる場所を吟味する。と言い聞かせて、予定時刻までに店長に着いていく自信がなかったので諦め、大岩シューティングの撮影に集中した。

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 この時間が一番緊張する。

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 「いつでもいいですよー!」

 と聞こえたかどうかはわからないが、無線を持っていない僕は大きく声を出し、手を振って合図した。

 そこからの数分間、スキーで刻まれる一つ一つのシュプール(滑走跡)に込められた気持ちを必死に読み取り、無心になってシャッターを切った。

 作品として残せるレベルのものではないかもしれないけれど、自己責任で自己満足の世界で滑走者と撮影者が得る喜びは、何ものにも代え難い。

 そして、ほんの一瞬の出来事のためにここまで登る労力は計り知れないが、その価値があることを分かり合えたもの同士がここにいる。

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 満足したのもつかの間、店長が早くも山頂に到着していた。そして、少し間をおいて、大出原の大斜面に向かってドロップインした。

 フラットライト気味の斜面は見えにくいようだが、ターンを一つずつ刻んで確実に滑る姿をファインダー越しに捕え続ける。スノーボーダーが遠心力を使って地形に刻む”ターン”は、スキーで滑走するそれとはまた異なる趣の質を感じた。

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 無事今シーズン最後の滑走を終えて、ストップスノーの帰り道を白馬鑓温泉へ向かって進む。

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 温泉に戻ると、日帰りの登山者、スキーヤーが熱い日差しの中既に熱い湯に浸かっていた。水着あるといいね。

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 最後の焼肉。

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 残りの野菜もがっつり炒める。

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 予定より一時間ほど遅れて下山開始。

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 荷物が軽くなっていると思ったが、実際そんなに変わらないのは毎回不思議に思う。

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 来る時辛かったところは、滑ればその分楽しめるということ。

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 下山後の温泉については、日焼け(火傷)のせいで皆思うように湯に浸かれないようだ。

 山をふと見上げると、先ほどまで滑ったり、焼肉したりしていた場所が近いようで遠くに感じた。

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 白馬村内にあるジンギスカン専門店「深山 成吉思汗」に初訪問。

 皆、お腹が満たされるまで肉を食べたけど、下山してもやっぱり肉は食べたいものだ。

 

残雪の秘湯で過ごして

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 初めての雪上キャンプを経験し、肉と酒、そして温泉と大満足な滑り納めの旅となりました。

 そして、僕にとって"滑りを撮ること"は、自身で滑ることと同じかそれ以上に価値のあることだと改めて実感しました。

 新たに得るものも大きかったこの2日間の経験は、これからの雪の旅に活かせることでしょう。