乗鞍岳(北アルプス)〜初の北アルプス、暴風と快晴が入り混じる秋の旅〜
北アルプスに位置する乗鞍岳(のりくらだけ)に行ってきました。
乗鞍岳は、長野県と岐阜県に跨がり、標高3,026mの最高峰剣ヶ峰(けんがみね)を主峰とする山々の総称です。
北アルプス南部に位置する山々の中でも独立しているため、遠くから見た乗鞍岳の姿は飛騨地域の象徴となっています。
夏の高山植物や秋の高原紅葉、そして雪のある時期は山スキーなど、通年で楽しめるのも乗鞍岳の魅力です。
今回の登山は少し贅沢に秋の北アルプス2,700m宿泊プランを組みました。
突き抜けるような青空
標高3,000m級で受ける暴風
見頃を迎えた乗鞍高原の紅葉
思い出せばきりがない初めての北アルプスの思い出の旅を記録に残します。
乗鞍岳の記録
1日目|山の天気
午前05:53
JR王子駅に朝日が当たる。
今回は大人4人で泊まりということもあり、日が昇ってからのゆっくりスタート。
中央自動車道を渋滞に巻き込まれながらも進んで八ヶ岳の麓に到達。
洒落たPAで休憩を入れる。
ここまで来ると渋滞もなく、気持ちの良い秋晴れを感じるくらいの余裕が生まれた。
往路を進み、松本ICを降りて、岐阜県へ向かう国道158号線を乗鞍高原へ向けて進む。
上高地や乗鞍高原は松本ICからの距離が長い上に、道が限られているため混雑する印象があるが、この日も例外ではなかった。
乗鞍高原へ向かうにつれて、大体の車が上高地方面へ向かっていったためか、比較的空いてきた。
ちょうど昼時であったため、そば処「いがや」というところに入店することにした。
雪の乗鞍岳は真っ白になるのでしょうか。
乗鞍岳は山スキーのメッカでもあるためスノーシーズンに来てみたい。
地元のおばちゃんたちが厨房で手打ちで作ってくれる信州ならではのそば処。
外には水車もあり、昔ながらの「そばを打つ」という素朴さを味わえる。
午後12:51
昼食を終えて、一気に乗鞍岳へ!
と言いたいところですが、長野県側の乗鞍エコーライン及び岐阜県側の乗鞍スカイラインにはマイカー規制がある。
今夜の宿泊地へ向かうにはシャトルバスに乗らなければならない。
往復2,500円と少しお財布にはダメージのある金額ですが、標高2,700mへバスで行けることを考えると安いのかもしれない。
岐阜県側からのアクセスも可能であり、その場合は平湯バスターミナルとなる。
乗鞍エコーラインを登る。
森林限界を越え、紅葉の名所としても知られている道路。
標高を上げるにつれて天候が怪しくなってきたのは気のせいか。
山の天気は変わりやすいというがまさにそれだ。
畳平周辺に差し掛かったあたりで風が強まり、バスを降りると前を向けないほどに吹き荒れていた。
「とりあえず急いで宿に入りましょう!」
と言ったら目の前に今夜の宿、銀嶺荘(ぎんれいそう)の入り口があった。
受付けを済ませて部屋へ案内されると、山小屋というよりも普通の宿の和室といった雰囲気のある部屋が待っていた。
テレビが置いてあることで、標高2,700mに来た感覚はより一層薄れた。
少し落ち着いて時間もあったため館内を散策。
2階が宿となっており、1階は売店となっていた。
長野県の銘菓「雷鳥の里」は各地でよく見かけるが未だ食べたことがない。
一体どんな味なのだろうか。
乗鞍岳全容。
「とる」のは写真のみ。
「残す」のは足跡のみ。
明日どれだけの足跡を残せるか楽しみだ。
乗鞍岳は霊山でもあるため乗鞍本宮の奥社が剣ヶ峰の山頂にあるとか。
寒いので屋内にすぐ戻ることになった。
風が強いこともあり畳平周辺は真冬並みの寒さ。
温泉とかでよく見るビール専用の自販機もバッチリ用意されている。
電気は発電機でまかなっているとのこと。
飛騨地方ではトマトも採れることをこのとき知る。
栃の実と朴葉味噌、そして飛騨牛ぐらいしかないだろうと勝手に決め付けていた。
ここにもトマトが入っている。
「乙女らが 玉手ならべて 洗いたる かぶらの色の 美しきかな」
飛騨ではこのような歌が古くから唄われているみたいで、伝統的な漬物文化が根付いているとのこと。
熊本からわざわざ。
このころどうでもいいもの写真に撮り続けていたためかこんな写真が沢山ある。
そのおかげか、忘れかけていた昔の記憶も蘇ってくる。
簡易郵便局がある。
そのうちコンビニができそうな気がするのは気のせいか。
このあと夕食を食べて、畳の部屋でお酒を飲みながらゴロゴロして、小さいながらもお風呂があるためのんびり湯に浸かり、眠りについた。
。。。
何しに来たんだっけ。
2日目に続く。
2日目|北アルプスデビュー
夜明け前、御来光を目当てに早起きをして、ヘッドライトの明かりを頼りに暗闇を進む。
畳平に宿泊して御来光を見るのであれば、近くて東側に景色が開けた大黒岳(だいこくだけ)に登るのが良いと判断。
露出している肌に北アルプスの強風が打ちつける。
予報では終日強風のため、一日を通して風との戦いになる気がする。
ブルーアワーによる至福の時間。
早起きした者だけが見れる濃いめの青色は、徐々に薄くなってきた。
ひとときの感動、感じるものは大きい。
しかし、あまりの強風により、装着していたコンタクトが外れて、一瞬にして北アルプスの彼方へと消えてしまった。
替えもなく、裸眼になってしまい片目だけで行動することになった。
午前05:56
八ヶ岳連峰の背後から登る火の玉が僕らを照らしてくれる。
暗闇に終わりを告げ、太陽の光が暖かさをもたらす。
徐々に周囲の山々にも日が当たり、昨日は見ることができなかった北アルプスの全容が、片目だけでも隅々まで見渡すことができた。
薄っすらと乗鞍スカイラインが伸びるその先に、北アルプスの代表とも言える槍・穂高連峰が見える。
貴重な瞬間に別れを告げて、畳平へ戻ることにする。
畳平の後方にそびえる魔王岳(まおうだけ)にも陽の光が当たり、目覚めの時間が訪れた。
毎日、毎朝、このような時間を過ごすことができればいいな。
畳平は夜間の冷え込みにより氷が張ってアイスバーン状態となっていた。
こんなところからも10月の北アルプスの気象が伺える。
午前08:13
宿で朝食を済ませ、快晴の中、乗鞍岳へ向けて出発です。
発電機故障により電気が使えないということで、雷鳥の里をお詫びに配布してくれた。
乗鞍岳は最高峰である剣ヶ峰をはじめ、その他5つの峰からなる大連峰であり、独立した峰と考えるととても巨大な山であることがわかる。
鶴ヶ池(つるがいけ)
標高2,700mにある池です。
秋晴れの北アルプス。
これ以上の晴天があるのかと問いたいほど、この日は晴れ渡っていた。
畳平から肩の小屋までは車が走れるほどに舗装されている。
泊まっていた宿の立ち位置が遠目から見えるようになった。
雲海ができた日には、雲上の宿になるでしょう。
少し標高を上げたことで、北アルプスの主脈が見えてきました。
早朝片目で見つめていた八ヶ岳もはっきり見れます。
10月になるというのに雪が残っていることに驚く。
地図には「大雪渓」と書かれており、7月下旬まで夏スキーができるようになっているらしい。
畳平から出発して約30分。ここから乗鞍岳山頂まで約60分。
家で短編映画を観る時間があれば、北アルプスの頂上に立てる計算になります。
午前09:00
肩の小屋に到着すると、大雪渓横から登って来たであろう日帰り登山者たちで賑わっていた。
往復の時間を計算すると日帰りで難なく来れるのもまた魅力の一つ。
ここから乗鞍岳最高峰剣ヶ峰へ向けて進みます。
山頂まで岩がゴロゴロ転がっていて歩きにくいため、捻挫だけ気をつけたい。
登っている最中、振り返ると標高がどんどん上がっていることに気づく。
大きな山も観えてきた。
岩も徐々に大きくなってきた。ここまで大きいと避けるしかない。
山頂に向かうにつれて、岩は大きくなり、砂も現れてきた。
はるか昔、火山活動があったみたいで、その名残が今も尚存在し続けていることになる。
乗鞍岳を火山として見たとき、富士山、御嶽山(おんたけさん)に次いで3番目に大きい山になると後々知った。
高度感も増してきた。
風が相も変わらず吹き付けるため、身体ごと吹っ飛びそうになる。
手前の道路のような道が、畳平から歩いて来た道。
老若男女、誰でも歩く事ができる仕様にしている優しさが伝わる。
バツが付いているところは登ってはいけません。
登った拍子に岩が落ちて、下にいる人に当たることに違いないでしょう。
目線の先に見える青い池は、噴火活動によってできた池で、権現池(ごんげんいけ)と呼ばれている。
「権現」は日本の神様の称号の一つだそう。
午前09:34
蚕玉岳(こだまだけ)に到着。標高2,979mあり、風の通り道となっているため一気に強風が身体に向かって襲いかかってきた。
そして、向こう側に小さく見える鳥居が剣ヶ峰頂上。
頂上直下には売店もあり、お土産やTシャツなども売っていた。
一瞬どこに来たのかわからなくなる。
乗鞍高原は紅葉ピークを迎えているため、彩り豊かに山が色づいていた。
乗鞍岳の紅葉が最盛期と聞いていたため、登っている時に紅葉見れるかなと期待していたが、実際に来てみたら岩と砂と整備された道だらけだった。
最後の登り。
これを登りきればこれ以上登ることはない。
北アルプスの主山脈を背にゴールへ向かう。
午前09:56
畳平から約90分、乗鞍岳最高峰の剣ヶ峰3,026mに到着した。
標識の向こう側に見える山は、2014年9月27日に突如噴火した木曽の御嶽山。
紅葉が見頃の週末ということもあり、山頂付近には多くの登山客がいた。
戦後最大の火山災害として、多くの犠牲者が出ました。
僕はこの年(2013年)の10月にあの山へ友達と登りに行ったが、その時は噴火する山なんて考えもしなかった。
畳平にあった乗鞍本宮の奥社が山頂にあるがこの時は閉まっていた。
山頂は暴風が吹きさらし、凍えている人もいた。
ある人は帽子が一瞬にして飛ばされていた。
狭い山頂に避難民が集まっているみたいで、せっかくの喜びが後ろ向きな気持ちに変わりそうだったため、そそくさと下山することにした。
細い尾根をたどって続々と登山者が剣ヶ峰を目指してくる。
下山も岩に足を取られるため、注意が必要。
ふざけてたら足を挫くでしょう。
特に、暴風の中、ザレた砂利道でジャンプして飛ばされて、他人に迷惑をかけることのないように気をつけましょう。。。
畳平に戻る前に、乗鞍岳のピークの一つである富士見岳(ふじみだけ)に寄っていくことにした。
岩の階段が出来ており、登山道というよりは観光道路。
畳平から手軽に来れるため装備のない人でも景観を楽しめるでしょう。
午前11:07
富士見岳2,818m。冒頭の畳平を俯瞰する景観が望めるため、登山及び観光問わず、乗鞍岳に来た際には是非登ってみることをオススメする。
畳平へ戻ると、シャトルバスが列をなしているほどに観光客が訪問していた。
早朝の静寂が嘘のようで、少し高いけど宿泊して良かったと思えた。
最後に魔王岳を目指す。
名前とは裏腹に、約15分の手軽さがウリ。
魔王岳は、小さい子どもが簡単に来れるくらい簡単です。
乗鞍岳で一番手軽なピークは魔王岳でしょう。
午前11:37
魔王岳2,764m。
比較的ラフな格好の方々で賑わっていた。
まだ午前中にもかかわらず、2,500mオーバーの山々に4つ登ったことになる。
魔王岳からは、槍穂高の距離がとても近い。
岐阜県の平湯ターミナルに向かって伸びる道路が、乗鞍スカイライン。
マイカーで来れた頃が、少し羨ましくも思う。
名残惜しいけれど、最後のピークにお別れを告げた。
今回畳平を拠点にすることで、経験の少ない僕たちでも北アルプスの絶景を味わうことができた。
経験が浅く、不安な人にはオススメです。
帰りも往路同様、バスに乗って帰るのだけれども、観光目的の人たちで大行列が出来ていたため、並ぶことは免れなかった。
帰りのバスでは、往路で見えなかった紅葉の乗鞍高原がはっきりと見えた。
麓に到着後、温泉で汗と汚れを落とすため、長野県が誇る名湯「白骨温泉」へ向かうが、紅葉時期の3連休ということもあり、大混雑で30~40分の待ち時間を余儀なくされた。
帰りの高速道路も渋滞がひどく、東京へ着いた頃には日付が変わっていた。
毎回、山に登るよりも、自宅までの帰路の方が体力を必要とする。
乗鞍岳を終えて
長くなりましたが、以上が僕たちの体験した初めての北アルプス、乗鞍岳の記録です。
”手軽 絶景 3,000m”
そんなキーワードで山を探している人がいたら是非参考にしていただきたいと思います。
本来、日本の北アルプスの山々は、経験と装備、知識など行くまでに色々と準備を要し、限られた人間のみが立ち入ることができる狭い世界。
しかし、乗鞍岳では、それらの準備ができない人たちでも、北アルプスを楽しむことができるよう、広く山の入り口が開かれています。
2日間の今旅は、天候にも恵まれた贅沢なものとなりましたが、
乗鞍岳は日帰りでも充分に楽しめる場所となっているため、興味のある方は一度行ってみることをお勧めします。
その時は、事前に天気だけでも調べていくと良いでしょう。
乗鞍岳の位置
乗鞍岳の地図
...
2014年9月27日
御嶽山噴火の当日。
僕は友人たちと東北へ山を登りに出かけていたため噴火の影響はなかった。
心配して連絡をくれた方もいた。
御嶽山の噴火は、火山活動が他人事ではなく、ごく身近なものであることを知らせてくれた。
同時に、自然との遊びが楽しいことばかりではないということを気づかせてくれた。
自然の中で遊ぶことは、心身ともに良い影響を受けて、心地よい時間を過ごすことができる。
そんな遊びをこれからも続けたいし、やめたくない。
そのためにも、自然に対して逆らおうとせず、自分本位にならないよう謙虚でありたい。